最近、「慢性疼痛」の方は
腰や肩が実際に「痛い」のではなく、脳が「痛みに囚われている状態」である。

そういう、脳の「誤認」「錯覚」の問題でもあるとも
言われるようになりました。

圧迫骨折や腫瘍など、内科・整形外科的な具体的な問題が見つからない。
にも関わらず、腰が痛くて歩けない。

そんな、原因不明の慢性疼痛患者の脳の意識は
痛みの原因になっている身体的要因は緩和されているにも関わらず、
全部「痛い・痛い・痛い」で満杯の状態になってしまっている。

だから、脳に充満する「痛い」を別のなにか、自分が心から楽しいと思えることに
置き換える。
痛み止めの注射や薬などの治療と並行して、
自分が夢中になれることを見つけ出し、
脳の意識を「痛い・痛い・痛い」から「楽しい・ワクワク・嬉しい」に、
シフトチェンジさせることも、治療として必要な要素である。

子供の頃、転んで膝にすり傷などを作ったとき、
お婆ちゃんやお母さんが傷に手をあて、
「痛いの、痛いの、飛んでいけ～」
って、された思い出のある方、いらっしゃるんじゃないでしょうか。

そうやって、「意識」を「痛み」から逸らすことで
実際に「痛み」が緩和する。
それが、科学的に立証されつつある。

そんな一説も、テレビなどで多く見かけるようになった気がします。

医学的観点からみても
実際に、楽しいことに夢中になっていれば、痛みを感じにくくなるそうです。
そういう「感じない」時間が増えるにしたがって、だんだん「私は、もう大丈夫」
という自信がついてくる。

その自信が、さらに行動範囲を広げるきっかけにもなる。
そうやって、気がついたら「痛み」を忘れてしまっていた。それが、脳のシフトチェンジが完了したという、ひとつの目安にもなる。

その話をテレビ等で聞きながら
私は以前、私のクライアント様が話してくださったことを思い出しました。

「こういう痛みって、なかなか人に言ってもわかってもらえない。出血しているわけでもないし、あんまり言うと、押しつけがましく聞こえるんじゃないかと思っちゃうし。だから、こうやって本当に痛いんだって言うことができて、それを誰かにわかってもらえる。それだけで気が楽になります」

と。

確かに、実際に慢性疼痛を抱えているクライアント様は「本当に痛い」んです。
でも、ほとんどの方がそれを「あえて」言葉にはなさらない。

我慢強い方ほど、「痛い」と訴えることを「甘え」だとして自粛して、
ひとりで黙って耐えている。

ですが、身体的な痛みの要因は緩和されているにも関わらず
脳がまだ「痛い」と感じているのだとしたら、
それは脳に刻みこまれた「痛みの記憶」。つまり、脳のトラウマということです。

精神的なトラウマからの回復の第一歩が
「トラウマになった体験を言葉にする」ことだと、いうのなら、
この脳の「痛みのトラウマ」を解放するには、
本当に「痛かったのだ」と、言葉にすることも必要なプロセスなのではないのかと。
そんな風に思っています。

ですから、施術のときにはクライアント様に、
同じ「腰痛」であっても、「どこか、どのように」痛いのか。

ズキズキなのか。ずきーんなのか。どーんと重だるい感じなのか。ギシギシするのか。
どんな動作の時に、いちばん痛みを感じるか。
また、表層、中層、深層の三層に分けるとするなら、
痛みを感じる箇所は、どの層のどこに分類される気がするか。

私は質問を細かく重ね、
痛みの原因となっている身体的要因を探るとともに
クライアント様に思う存分「ここが、こんな風に痛いんだ」と、おっしゃっていただく
ようにしています。

そう「声に出して言う」ことで、脳に刻まれた「痛かったというトラウマ」も
一人で痛みに耐え続けている寂しさも。
思うようにならない自分への苛立ち。腹立たしさ。
他の人はあんなに元気なのに、どうして私だけがこんな痛い思いをするんだろう。
そんなやるせなさも、
身体の痛みと一緒に少しでも手離して、帰っていっていただけるといいなあと……。

日々、そんなことも思いながら、クライアント様を迎えています。

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